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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)625号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人野尻昌次の上告理由第一点について。

所論について判断するに先だち、職権をもつて上告人等の本訴請求中、被告熊本県知事が昭和二一年一一月一五日に為した熊本県球磨郡湯前町農地委員会解散処分の無効確認を求める部分について調べてみるに、農地調整法に基づく農地委員会は、農業委員会法(昭和二六年三月三一日法律第八八号)の施行により、同法附則二項の経過的存続期間の終了とともに廃止されることとなり、市町村については昭和二六年七月二〇日の選挙により農業委員会が成立すると、同時に農地委員会は消滅したことは、顕著な事実であるから、上告人等は、本件農地委員会についてもはや本訴により解散処分の無効確認の判決を求める利益を有しないのである。従つてこの部分に関する原判決は結局正当に帰する。

よつて所論の農地調整法施行令二八条の四が違憲違法なりという主張は、前記無効確認を求める訴の前提たる理由に過ぎないから、判断をするかぎりでない。

次に上告人等の損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すべきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また、公務員個人もその責任を負うものではない。従つて県知事を相手方とする訴は不適法であり、また県知事個人、農地部長個人を相手方とする請求は理由がないことに帰する。のみならず、原審の認定するような事情の下においてとつた被上告人等の行為が、上告人等の名誉を毀損したと認めることはできないから、結局原判決は正当であつて、所論は採用することはできない。

同第二点及び第三点について。

所論中第一点について判断した部分を除き、その他の主張は、要するに原審の事実認定を非難するか、または独自の見解に立つて原審の判断を攻撃するに過ぎず、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、本件上告を棄却すべきものとし、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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